首里城・龍頭棟飾ができるまで
― 450年の歴史を背負い、
龍は再び空へ昇る ―
1|すべては、失われた象徴から始まった
2019年10月31日未明。炎に包まれた首里城は、多くの人々の記憶とともに焼失しました。
その復元は単なる建築再生ではなく、「技術の継承」と「文化の再構築」という大きな使命を伴う国家的プロジェクトでした。
正殿屋根の上部三カ所に設置される龍頭棟飾。
それは首里城を象徴する存在であり、“正殿の守り神”と呼ばれる特別な装飾です。
私たち株式会社環芸は、その制作を担うことになりました。


2|図面の先にある“龍の姿”を探す
復元は、過去の記録と向き合うことから始まります。
縮尺1/5の石膏模型を制作し、細部のバランスを検証。
さらに原寸モックアップを製作し、実際のスケールで迫力や構造の確認を行いました。
- 吽形
- 阿形
-
唐破風屋根の龍頭棟飾
縮尺1/5龍頭棟飾石膏模型 西村貞雄氏作製
「図面通りに作る」のではなく、
屋根上での設置工程から逆算し、
陶磁器でありながら“建築物の一部”として成立させる設計思想が求められました。
唐破風パーツ図・正面
唐破風パーツ図・横
鉄骨下地の設計、重量配分、組み上げ順序。
ここでの精度が、その後のすべてを左右します。
3|土は生きもの。沖縄の土を生かす
復元は、過去の記録と向き合うことから始まります。
縮尺1/5の石膏模型を制作し、細部のバランスを検証。
さらに原寸モックアップを製作し、実際のスケールで迫力や構造の確認を行いました。




発泡スチロールによる110%龍頭棟飾の作製
1/5石膏型を3Dスキャンし図面化したデータをもとに
110%拡大の発泡モデルを制作しました。なぜ110%の模型かは次にご説明します。




110%の発泡模型を作ったわけは土を焼成したときの収縮が10%縮むよう考慮したもので、
100%の大きさの龍を据え付けるためでした。
単に10%縮む土を探したわけではなく、塑造性・可塑性・強度・釉薬の発色と持続性etc・・・
土そのものが持つ特性を生かすべく約1年「龍頭棟飾の土」を探しました。
全ては完成された龍の姿をイメージしたもの。
そこから逆算して龍頭棟飾に適した土探しに熟考を重ねた結果、恩納村の2種類の土をブレンドすることに辿り着きました。
土は単なる素材ではなく、土地の記憶を宿す生きもの。
- 凹型石膏 2023年10月6日
- 凹型石膏棚
- 歯・牙部分
- 鱗部分
- 頬部分
龍は約200個のパーツに分けられ制作され、そこから粘土型を起こします。
その一つひとつが手仕事です。
粘土の乾燥収縮、焼成収縮を計算しながら造形を進める。
ここで数ミリの誤差が、最終的には数センチの差になります。
陶芸でありながら、構造物を作る。
それがこのプロジェクトの難しさでした。
4|焼成。失敗が許されない時間
- 2基のガス窯
- 施釉後本焼成前
-
本焼成後 陶片窯出し
2024年8月15日
大型ガス窯での焼成。
数百キロ単位の陶片を一度に焼く。
窯の中では温度管理がすべて。
わずかな温度差で割れや歪みが発生します。
- 作業状況
- 陶片検品 2024年7月29日
焼成は一発勝負。
失敗は許されない。
窯出しの瞬間は、静かな緊張に包まれます。
5|仮組という答え合わせの戦い
焼き上がったパーツを工房で仮組します。
- 陶片仮組
鉄骨との取り合い、接合部の精度確認。
図面通りにいかないのが陶器の特性です。
「陶器は生き物。」一体ずつ微調整を重ね、ようやく200個のパーツが一つの龍へと姿を変えます。
-
陶片ユニット裏側(凹型)
2024年11月1日
-
仮組 鉄骨との取り合い確認
2024年12月6日
6|見えない部分こそ、真の技術


屋根の上に設置される龍頭棟飾は、総重量約2トン。
裏面には構造補強が施され、GRC打設や埋込金物固定など、建築工学的な処理が行われています。


GRC打設
金物取付
表からは見えない部分にこそ、長期耐久性を支える本質的な技術があります。
7|色を宿す。釉薬という命
龍の目は命です。
- 目玉部分
- 下顎部分
- 歯の部分
【各部位の釉薬】
顔:黄瀬戸釉
胴体(鱗):伊羅保釉
たてがみ・背びれ:銅青磁釉(オーグスヤー)
口髭・顎鬚:焦げ織部釉
瞳(黒目):焦げ織部釉
白目:ワラ灰釉
歯:石川白土+ヘーシチャー土
舌:一般釉(ベンガラ)
釉薬の試作は何度も繰り返されました。
温度、配合、焼成時間。
微妙な差が色味と質感を変えます。
首里城の瓦色、屋根との調和、そして力強さ。
ただ美しいだけではいけない。
屋外環境に耐え、数十年、数百年と残る色でなければならない。
龍の目に光が宿った瞬間、ようやく“命が入った”と感じられました。
大棟の龍頭棟飾 コーキングのマスキング
8|龍、空へ昇る
2025年6月3日。
大棟での龍頭棟飾搬入後点検
2025年6月3日
クレーンで吊り上げられた龍は、ゆっくりと正殿の屋根へと向かいます。
- 唐破風屋根の龍頭棟飾取付状況
- 上顎の鉄骨下地
- 大棟龍頭棟飾取付状況
何十人もの職人。何百人ものサポート。何千時間もの工程。
そのすべてが、この瞬間のためにありました。
屋根全景 2025年7月1日
屋根に据えられた龍は、再び空を睨みます。
9|文化は、受け継がれる
- 吽形
- 阿形
- 唐破風屋根の龍頭棟飾
首里城は焼失と再建を繰り返してきました。
今回の復元は「令和の復元」と呼ばれ、県産使用と技術継承並びに人材育成が大きなテーマとなっています。
工房には20代から70代までの職人が集い、 彫刻、陶芸、設計、構造、それぞれの専門家が協働しました。

私たちが制作したのは、単なる装飾ではありません。
未来へ受け継がれる文化そのものです。
― 450年の歴史の、その先へ。―
沖縄の土から生まれ、 多くの人の手を経て、屋根の上に立つ龍。
それは過去を再現するものではなく、 未来へと続く証。
株式会社環芸は、 文化をかたちにする仕事を続けています。